木の下に立ち止まって

桜並木のある堤の下の、或(ある)小さな路地の奥に、その幼稚園はあった。――その堤の上からも、よく晴れた午前などには、その路地の突きあたりに、いつも明け放たれた白い門の向うに、青葉に埋もれたような小さな運動場が見え、みんな五つ六つぐらいの男の子や女の子が入れ雑(ま)じって、笑ったり、わめいたりしながら、遊戯なんぞをしていた。ぶらんこが光り、オルガンが愉(たの)しげに聴(きこ)えていた。......、
 屡※(二の字点、1-2-22)(しばしば)、その堤へおばあさんに伴われて散歩に来るときなど、私はよく桜の木の下に立ち止まって、彼等の遊戯に見入っていた。ことにそのオルガンの音が私には何んとも言うに言われず魅惑的だった。そんな私を待ちくたびれて、ぼつぼつと歩き出していたおばあさんが、いつかもうずっと先きの方まで行ってしまっているのに気がつくと、私は漸(ようや)っとその場を立ち去るのだった。
 或る日、母が私に言った。
「お前、幼稚園へ行きたいの?」


前のページへ次のページへ